釣りに行こう



まだ太陽が東の地平線に昇る前、早朝のトレーニングを終えて館に帰ってきた鳴海は車の後ろに
荷物を積みこんでいるダールに出会った。
「何してんだ、あんた」
鳴海が尋ねると、ダールは手を動かしたまま鳴海に答えた。
「釣りに行くんだよ。今日はいい天気だからな。」
それを聞いた鳴海はダールに頼みこんだ。
「なあ、俺も連れてってくれねえか。俺さ、一度も釣りってしたことがないんだよ。」
「はあぁ?一度はあるだろ?親父か友達とかいるだろうが。」
「そうなんだけどよ、親父は仕事でほとんど家にいなくてしかも早く死んじまったし、
いじめられっこだったから友達もいなくて、強くなりたくて拳法始めてからそれしか
やらなかったからさ。」
荷物を積みながら話を聞いていたダールは、後ろの扉を閉めると鳴海に言った。
「五分で着替えて来い。帽子と長袖だからな。飯はどこかで買えばいいし、釣竿は貸してくれる
所があるからな。」
「本当かよ!感謝するぜ、ダール!」
喜んで礼を言う鳴海に照れくさいのか、ダールは怒鳴って鳴海を急かせた。
「くだらねえこと言ってると置いてくぞ!」
こうしてダールと鳴海は海辺へと向かった。

太陽が水平線から顔を覗かせる頃、二人は堤防に並んで座り、鳴海はダールに釣りの基本を
教えてもらうと二人とも海に糸をたらした。
「来ねえなあ。」
「まだ糸たらしたばかりだろうが。」
「そうなんだけどよ。でも意外だったな。」
「なにがだ?」
鳴海の言葉にダールが眉をひそめて尋ねる。
「釣りをするって聞いた時、船で沖まで出てマグロとか釣るのかなと思ってたんだけど、
あんたがこんなずっと待たなきゃいけない釣りをするなんて」
「馬鹿野郎。ただ糸をたらしてるだけなら案山子でも出来る。
釣れなきゃ場所を変えたり重りを変えたり、いろいろやることはいっぱいあるんだ。」
「…それなら短気なあんたにぴったりだな。」
「なんか言ったか?」
「いや、別に。」

春の光を反射し白く輝く海のそば、二人の釣りは始まったばかりだった。




■あとがき■
すみません、これ書き終わったあとに鳴海はおじいちゃんがいたことを思い出しました(汗)。
おじいちゃんが連れて行ってくれたこともあるかもしれないなと思ったんですが、そのままで・・。
それと鳴海がダールと一緒にいるのは、しろがね達がとある屋敷を借りて、一時的にですが、
共同生活をしている設定となっています。(だから他のしろがね達もいるのです。ここでは
出てこないのですが)
自己満足ものですが、ダールと鳴海のやりとりが書けたんでよかった。
この二人のやりとりはまだまだかきたいです。


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